最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)668号 判決 1948年10月26日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人金子繁雄並に辯護人坂本哲夫の上告趣意は、末尾添附の書面記載の通りである。但し辯護人は、その上告趣意第二點の中憲法違反の主張の部分を削除する旨を、當公判廷に於て述べたから、本件は大法廷に移さないで、當小法廷に於て審理した。
辯護人坂本哲夫の上告趣意第三點について。
本件公訴事実は強盗傷人の罪であるのに、原審は強盗未遂の罪を認定した。原審が傷人の點を不問に付したにも拘わらず、判決を以て無罪の言渡をしなかったことは、理由不備の違法を免れないものであるというのが論旨である。しかし論旨が、強盗傷人の點について無罪の言渡を為すべきであったと主張するのか、又は傷人の點についてのみ無罪の言渡を為すべきであったというのか、何れにしても理由がない。蓋し、強盗傷人罪は、強盗又は強盗未遂行為の結果的加重犯であるから、公訴事実と判決で認定した事実との同一性は失われていない。強盗傷人という公訴事実につき強盗未遂罪を認定した以上、強盗傷人について無罪を言渡すべきいわれはない。又傷人ということは、強盗傷人罪の一部分であって、獨立の一罪として起訴されているのではないから、傷人の點のみにつき無罪を言渡す必要もない。それ故に原判決には、理由不備の違法なく、論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
右の理由により、刑事訴訟法第四四六條に從い、主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)